家を持つ

家庭経済の耳より情報

2022年09月25日

先の見えない時代だからこそ… 老後のフレキシブルな考え方のすすめ

“いつかはマイホーム“ 誰もが一度は夢に見る魔法のコトバ
終身雇用が当たり前だった時代には、退職金を使ってローンを完済された方も多いと思います。

 時は移ろい、令和の世。平均寿命が延びて人生80年時代から人生100年時代と謳われるようになっています。
呼応するように、これまでは考えもしなかったような問題が、現代を生きる人々を悩ませるようになってきました。
寿命が延びたということは、本来とても喜ばしいことです。しかし、現代では手放しに喜んでばかりもいられない事態が起こっていることも現実なのです。
これから挙げる3つの問題は、みなさん、どれも一度は耳にしたことのある言葉でしょう。しかし、我が身に降りかかる火の粉と考えていらっしゃる方は少ないのではないかと思います。これを機会に是非一緒に考えてみて下さい。

 まずは"老後2,000万円問題"。
一時期世間を騒がせましたよね、この言葉。2,000万円という数字が適正なのかどうかは、人それぞれでしょうが、老後の生活を支える余裕を持った資金は準備できていますか? その金額に不安はありませんか?
※ここで老後2,000万円問題をもっと詳しく知りたい方は、当欄「家庭経済の耳寄り情報」の以下の記事を参照して下さい。
『人生100年時代の「住居費」について考えよう』

 二つ目が"8050問題"です。
平成の頃"8020運動"というのが流行りました。
80歳になるまで20本以上の歯を残そう!という運動ですが、これとは全く違う内容です。"8050問題"はとても生命に直結する、そして、誰の身にも起こりうる由々しき問題です。
予想もしないリストラや会社での人間関係で精神が参ってしまい出社できなくなってしまう等、様々な理由で社会に出られず、引きこもってしまった40〜60代の子供を80代の親が扶養することになる状態です。
「うちは大丈夫!しっかり働いているから…」なんて他人事だと思わないでください。
長引く不況、そこへ追い討ちをかけた感染症問題等、40〜64歳のいわゆる“引きこもり中高年者”の推計は61万人を超えていると言われています(内閣府調べ)
これは2019年の数字で、コロナの騒動が始まったのが2019年の年末ですから、現在、その数はもっと多くなっているのではないかと推測されます。
やがて、その子供が65歳を超えて、高齢者となることで、今では"9060問題"という言葉も使われ始めています。
「このまま、こどもを残しては、安心して死ぬこともできない…」「わたしが死んだらこの子はどうなるんだろう…」。相談者からそんな声を聞くこともしばしばです。

 最後に、"老老介護"・"認認介護"の問題です。
お互い65歳以上の高齢者が相手の介護をすることです。
他に介護をしてくれる身内が近くに居なかったり、近くに居たとしても介護を頼めるような付き合いでなかったり、子どもに迷惑をかけるから頼みたくないと突っ張る高齢者の方も多いことでしょう。
介護というのはとても大きな負担を強いられるものです。実際に体験しなければ、その大変さが理解できないでしょう。『介護疲れで…』なんて辛いニュースが流れることもありますよね。
しかし、いざとなったら避けては通れない道であることは間違いありません。
親の介護のことで、これまで円満だった関係がぎくしゃくしてしまうこともあるでしょう。
また、介護のために離職した子どもが、介護が終わった後に社会に戻ることができず、結果として、自分が引きこもりになってしまう。そういう方もたくさんいらっしゃいます。
年齢的にも精神的にも社会復帰が難しくなって引きこもってしまうお子さん(といっても中高年者)を産む温床であることも事実です。
他の人の手を借りず老老介護を続けると時間の経過とともに訪れるのが"認認介護"です。
認知症同士が介護をすることになるのが実状で、介護される側だけでなく介護する側も軽い認知が始まっている介護です。想像してみて下さい。笑い事では済まなくなってきます。

 60歳(65歳)で定年退職し、退職金で家のローンを完済。その残金と年金で悠々自適に老後を過ごし、自宅は子供に遺す。昭和の日本国民が夢に描き実現させてきたシナリオが令和の時代には殆ど通用しなくなってしまったのです。
先ほどの例のほかにも予期しない発作や年齢からくる身体の衰えにより、パートナーが要介護者となることは、誰にでも起こり得ることなのです。

 なんだか暗い話しばかりが先行して進んでしまいましたが、これらのことを想定し、予め対策を立てておくことで、それは解消に近づきます。
人それぞれ、年齢や家族構成、資産状況など、同じ答えは一つとして無いと思いますので、おおまかなガイドラインとして捉えて下さい。
貯蓄や保険金で賄うことも考えられますが、ここではあくまで想定外の出費があり、その時の対応策をどうするべきかという考え方で進めますので、一つの参考として下さい。

 なお、ここからは時系列の順番が逆になりますが、本当に切羽詰まった場合のに是非利用を検討していただきたい最後の切り札となる選択肢からお話しを進めます。

『生活保護という選択肢』
“生活保護を受ける”なんてとんでもない。と思う方もいらっしゃると多いと思います。
“路上生活者が受けるものだ“なんて先入観で制度時代を誤解している方はいませんか?

 生活保護とは相互扶助の精神です。世の中困っている人がいたらみんなで少しずつ出し合って助けていこう!という優しい気持ちです。
憲法25条で保証された“健康で文化的な最低限度の生活を国が国民の皆さんの総意として代行している制度です。
介護生活が長期化し、いよいよ立ち行かなくなった場合、年金は月々の生活費で消費してしまうし、虎の子の貯蓄は介護費で使い切ってしまった。となったら、なりふり構わず真剣に検討をするべきなのがこの制度です。
生活保護には8つの扶助制度がありますが、医療扶助や介護扶助は本当に困った高齢者のために良く考えられた支援だと筆者は思います。
しかし、税金を投入して行う事業である以上、いろいろな制約を受けるのも事実です。

 いざ申請をしようとする時に立ちはだかる最も高い山が、半生をかけてやっと手に入れたマイホームです。
“使える資産があるなら、まずはそちらを使ってください”というのが、国の考え方です。
やっとの思いで家の売却を決心したとします。
しかし、高齢者が追い詰められた状態での不動産売却となると、ここでまた、様々な困難が予想されます。
不動産取引は必要な手続きも多く、複雑な仕組みになっていることが多々あります。
例えば相場より低い価格で契約をしてしまい、後でそのことに気付いたとしてもクーリングオフは効きません。金額の大きい売買ですから細心の注意が必要とされます。

 そして、満足のいく価格で自宅を売却出来たとしても、次の困難が賃貸物件探しです。
あっては欲しくないことですが、高齢者に物件を貸すことを嫌がる貸主が想像以上に多いのが実情です。
結果として自宅を売却してしまったのに次に住むところが見つからないということになりかねません。
こういった事態を回避するためにも、早い段階で行動を起こしておけば、より有利な物件選びが期待できます。
例えば、公共交通機関の利便性や日用品の購入に便利な場所への住まい探しが出来れば、脚腰が弱った時や運転免許を返納した場合でも便利な生活を送ることができます。
また、持病があって遠くない将来、老人介護施設の利用等を予定されている方がいらっしゃる場合そのパートナーの方が、その施設の近くの物件に住むという選択肢も視野に入れて、余裕のある物件探しができることでしょう。

では、一体どうしたら良いのか?
今から備えておくべきことは?

認知症が始まって成年被後見人になってからでは、自らの意思のみでの売却は難しくなります。
そうなる前に、自宅を売却することを念頭に入れたシミュレーションをしてみることがおすすめです。
自宅を売却し、賃貸物件を探して家賃を払うという選択肢の他にもさまざまな選択肢が考えられます。
住み慣れた家に住み続けたいという方には“リースバック”、老後資金が不安な方には“リバースモーゲージ”などの方策が考えられます。
※リースバック・リバースモーゲージについての詳細は以下の記事を是非参考にして下さい。
ハウスリースバックを活用した老後資金確保
リバースモーゲージをもう1度考えよう

目まぐるしく変化していく現代を賢く豊かに生き抜くために、何事も先を見据えての備えが肝心。
備えあれば憂なし
早い段階で一度検討されてみてはいかがでしょうか?…

栗林 良彦 2022年09月25日