相続を考える

家庭経済の耳より情報

2023年02月25日

『相続時精算課税制度』が2024年から利用しやすくなります

 昨年12月に発表された2023年(令和5年)度の税制改正大綱によると、2024年より贈与した際に選択できる相続時精算課税制度に年110万円の控除が新設されます。
 そして、もう一つの選択肢である暦年課税制度における生前贈与の持ち戻し期間は3年から7年に延長されることになります。

 現行制度のメリット・デメリットを整理することで、今回の改正によって『相続時精算課税制度』が利用しやすくなるのかがわかると思います。

- 2023年までの『相続時精算課税制度』 -

・概要

 『相続時精算課税制度』は、60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。
贈与税額の計算方法は後述のとおりとなります。

 『相続時精算課税制度』を選択すると、対象となる父母または祖父母から贈与を受けるすべての財産について、その選択をした年分以降この制度が適用され、もう一つの選択肢である「暦年課税 ※」へ変更することはできません。

※「暦年課税制度」では、一人の人が1年間に贈与を受けた財産の合計額から、基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に贈与税がかかります。したがって、1年間に贈与を受けた財産の合計が110万円以下なら贈与税はかかりません。
(この場合、贈与税の申告も必要ありません。)

 相続時精算課税制度を選択した場合、贈与をした父母または祖父母が亡くなった時の相続税の計算は、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算します。

・適用対象者

 贈与者は贈与した年の1月1日おいて60歳以上の父母または祖父母など、受贈者は贈与を受けた年の1月1日において18歳以上で贈与者の直系卑属である子または孫とされています。

・贈与税額の計算

 贈与税の額は、贈与財産の合計額から複数年にわたり利用できる特別控除額(限度額:2,500万円)を控除した後の金額に、一律20%の税率で算出します。
したがって、2,500万円に達するまでは贈与税は課税されません。
(ただし、贈与を受けた年の課税額は 0円でも贈与税の申告は毎年行なわなければなりません。さらに、暦年課税の基礎控除額110万円は適用されませんので、特別控除額に達した後は1年間に贈与を受けた財産が110万円以下でも贈与税が課税されます。)
  
・相続税額の計算

 相続時精算課税制度を選択した場合の相続税額は、贈与者が亡くなった時に上記のとおりそれまでに贈与を受けた財産の価額と相続した財産の価額とを合計した金額を基に計算します。ただし、既に納めた贈与税相当額は控除されます。

 算出された相続税額が贈与税相当額よりも少ない場合は、相続税を申告することで還付を受けることができます。

- 現行の相続時精算課税制度のメリットと考えられることは -

・特別控除額を超えても、贈与税額が暦年課税よりも少なくなる場合がある

 暦年課税制度は110万円まで非課税、それ以上は贈与額に応じて税率が高くなります。相続時精算課税制度を選択した場合、贈与額が特別控除額の2,500万円を超えた年以降は一律20%の税率で課税されます。
したがって、年間の贈与額が一定額を超えた場合の贈与税額は、贈与額が高額になると税率が高くなる累進課税の暦年課税よりも、相続時精算課税制度のほうが安くなります。

 例えば特別控除額を超えた後、年間1,170万円の贈与があった場合の贈与税額は

暦年課税制度: (1,170万円-110万円)×40%-190万円=234万円
相続時精算課税制度: 1,170万円×20%=234万円

1,170万円の贈与では、どちらの制度でも贈与税額は同じになります。
したがって、1,170万円よりも高額の財産を贈与した場合は相続時精算課税制度のほうが贈与税額は安くなり、1,170万円未満の場合は暦年課税のほうが贈与税額は安くなります。

・贈与財産が値上がりの見込めるもの、収益性のあるものならば相続税を抑えられる

 相続時精算課税制度で贈与した財産は、相続発生時に相続財産に持ち戻します。
このとき持ち戻す金額は贈与時の時価です。
贈与時よりも相続時に時価が高くなることを見込める財産であれば、時価額の差額分だけ相続税を抑えることができます。
また、賃貸アパートなど、収益性のある財産でこの制度を利用すれば、将来発生する家賃収益を早めに受贈者に移転することができ、結果的に相続税を抑えることができます。

- 現行の相続時精算課税制度のデメリットは -

・110万円以下の贈与でも贈与税の申告が必要

 『暦年課税制度』では年間110万円以下の贈与であれば贈与税の申告は不要ですが、
『相続時精算課税制度』を選択した場合は、贈与額が50万円でも翌年3月15日までに贈与税の確定申告をしなければいけません。

・一度を選択すると暦年課税制度は二度と使えない

 概要でお伝えしたとおり、『相続時精算課税制度』の選択届出書を一度提出すると、適用をうける贈与者・受贈者間の贈与に関して二度と『暦年課税制度』の適用は受けられません。選択した年以降の贈与はすべて『相続時精算課税制度』の対象となります。

・特別控除額内でも贈与税申告漏れで20%課税に

 「贈与額2,500万円まで非課税」というのは「期限内に贈与税の申告書を提出する」ことが条件になります。50万円の贈与があったにもかかわらず贈与税の申告書を期限内に提出しなければ、50万円×20%=10万円の贈与税を納めることになります。

・受贈者が孫の場合は相続発生時に2割加算で相続税を納める

 孫が相続を受けた場合は、孫が代襲相続人でなければ相続税は2割加算されます。
したがって、『相続時精算課税制度』を使って孫に贈与を行なった場合は、相続発生時に課税される相続税は2割加算されることになります。

・相続時に小規模土地等の特例が使えない

 『相続時精算課税制度』を使って自宅や事業用物件を贈与してしまうと、相続税の節税で使える小規模土地等の特例が使えなくなってしまいます。さらに、相続ならばかからない不動産取得税や登録免許税もかかります。

- 新しい『相続時精算課税制度』(2024年 1月~) -

・年110万円の基礎控除を新設

 今回の改正で『相続時精算課税制度』に新たに「年110万円の基礎控除」の枠が加わります。
2024年 1月 1日以降、『相続時精算課税制度』を選択した人への贈与でも、年110万円までなら贈与税も相続税もかかりません。贈与税の申告も不要になります。

 一度『相続時精算課税制度』を選んだら『暦年課税制度』は二度と使えない点は変わりませんが、『相続時精算課税制度』の控除が特別控除(累計2,500万円)と基礎控除(年110万円)の二つになったことになります。

 年110万円以下の贈与であれば、贈与税はかからず申告も不要であり、さらに相続財産にも加算されません。特別控除額(限度額:2,500万円)を使い切った後に年110万円以下の贈与を続ける場合には、節税効果がでてきます。

- 『暦年課税制度』の改正(2024年1月~) -

・生前贈与加算が死亡前3年から7年に延長

 現行の『暦年課税制度』は、死亡日以前 3年間に贈与した財産は、相続発生時に、相続財産に持ち戻すことになっています。贈与した金額が年110万円以下の基礎控除の範囲内でも、贈与者の死亡日以前 3年間であれば、相続税の対象となります。

 この死亡前 3年という持ち戻しの期間が、2024年以降の贈与から 7年に延長されます。亡くなる前の 3年間に贈与された財産の扱いはこれまでと同じです。しかし、それより前の 4年間に贈与された分については、4年間に贈与された金額から100万円を差し引いた金額を相続財産に含めて計算することになります。

- 暦年贈与と相続時精算課税の選択方法は -

・年110万円以下で贈与を続けたい場合は

 ご高齢の方が「お子さんに税金がかからない範囲で少しでも早く財産を移したい」と思うならば、相続時精算課税制度を選んだ方が良いでしょう。亡くなる直前であっても年110万円までなら、相続税も贈与税もかからないからです。

 「お孫さんに少しでも将来のためのお金を残したい」と思うならば、暦年課税制度を選んだ方が良いでしょう。生前贈与加算は、相続人や受遺者出ない人には適用されません。つまり、亡くなる直前の贈与であってもお孫さんには相続税がかからないからです。

・高額な資産を移転させたい場合は

 前述したとおり資産の種類や、贈与者の年齢等によってどちらを選択した方が良いか変わってきます。

 将来価値が大きくなると期待できる資産(有価証券や収益性のある資産等)を、子や孫に残したい場合は『相続時精算課税制度』の利点を使った方が良いでしょう。

 まだまだお元気で、生前贈与の持ち戻し期間7年を気にせずに十分時間的な余裕があると思う場合は、年110万円の暦年贈与の基礎控除を活用して、時間をかけて移転させる方が良いでしょう。


 以上、生前贈与について2023年の税制改正で変更となる点についてお伝えしました。
 身内の問題で、どちらの制度を利用した方が良いかを迷われたときには、神奈川県ファイナンシャルプランナーズ協同組合にお問い合わせください。
経験豊かなファイナンシャルプランナーが、丁寧にお答えいたします。

荒川 衛 2023年02月25日