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家庭経済の耳より情報

2022年10月10日

65歳以降の働き方と繰下げ受給

会社員であれば、公的年金制度の老齢年金として、老齢基礎年金と老齢厚生年金を65歳から受給できます。しかし、65歳以降引き続き働く人もいることでしょう。働いていると年金の受給はまだ必要ではないと思うかもしれません。

年金には繰下げ受給制度があります。65歳からの老齢基礎年金や老齢厚生年金を65歳では受給せず、受給開始を遅らせる代わりに年金額を増額させることができます。66歳から75歳までの間の1か月単位で繰下げが可能で、増額率は1か月繰下げにつき0.7%となります(1952年4月1日以前生まれの人は、繰下げは70歳まで)。つまり、70歳繰下げで42%、75歳繰下げで84%増額できます。そして、老齢基礎年金、老齢厚生年金、それぞれで受給の開始時期を選択することができます。

ただし、繰下げ受給には注意点がありますので、しっかり理解しておきたいところです。まず、繰下げの増額(1か月0.7%)の対象となるのは65歳の前月までの加入記録で計算された年金です。働いて厚生年金へ加入すること自体は70歳まで可能で、65歳以降も厚生年金を掛けることで老齢厚生年金を増やせますが、その老齢厚生年金を例えば70歳で繰り下げたとしても、65歳から70歳までの5年間で掛けて増える分については、42%の繰下げによる増額はありません。

また、65歳以降働いて厚生年金に加入すると、在職老齢年金制度(47万円基準)による支給停止があります。65歳受給開始の老齢厚生年金が在老で支給停止になる場合は、たとえ繰下げをしても1か月0.7%の増額がされるのは支給停止が掛からない部分に対してとなります。つまり、65歳以降の在職中の給与が高いと、老齢厚生年金は繰下げ制度であまり増額されないということです。

老齢厚生年金に加算される加給年金、老齢基礎年金に加算される振替加算についてもそれぞれの年金の受給開始以降でないと加算されず、それらの加算部分については繰下げによっての増額はありません。

さらに、65歳時点で障害年金(障害基礎年金のみの場合を除く)や遺族年金を受給する権利がある場合はそもそも繰下げができませんし、66歳以降にこれら他の年金の受給権が発生すると、老齢年金の繰下げ増額はその時点までとなります。

なお、繰下げ受給を考えて待機していた人が、繰下げをせず、65歳にさかのぼって65歳開始(増額なし)で受給する方法も選択できます。ただし、年金受給の5年の時効の関係から、70歳を過ぎてからさかのぼる場合は、その5年前に繰下げをしたものとみなしての受給となります(2023年4月改正)。

以上の注意点もありますが、終身で受給でき、長生きリスクに備えられるのが公的年金。就労による収入や資産、家計の状況などを見ながら柔軟に受給方法を選択すると良いのではないでしょうか。

井内 義典 2022年10月10日